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③中世後期日本の男女 〜性的に消費されはじめる女性たち〜



この記事では「働く女性とジェンダー」をテーマとした新作ミュージカル脚本執筆に向けて、ジェンダー格差について私が調べたことを簡潔にまとめています。

今回は中世前期日本の男女とジェンダー格差についてみていきたいと思います。

中世後期とは、室町時代(南北朝時代、戦国時代)、安土桃山時代を指します。


①「古代日本の男女〜ジェンダー格差の始まり〜」はこちらから。

②「中世前期日本の男女 〜固定観念的「女性の幸せ」の萌芽〜はこちらから。



I室町時代

生き生きと働く女性たちと男性中心社会の影


”中世社会は行政や政治的な面で男性中心の社会になりつつあったため、納税など領主によって公的に把握される局面では、父親や夫など男性の名義で登録されるケース”(*2)がありました。

しかし、庶民の”経済的な活動においてはそうしたジェンダー規範がまだ浸透しきっておらず、実質的な経営者として活動する女性が少なくなかったよう”です。


この時代にはたくさんの働く女性の姿が見られます。

藍染職人や機織り、刺繍をする職人、帯や炭、魚を売る女性、不用品売買をして中間利益を得る女性、酒造業者や金貸し、神楽を踊る巫女や芸能者などがあり、それらの職業において統括的な地位にある女性もいました。

室町時代に作られたカルタのような「七十一番歌合」には142種類の職業が挙げられており、このうちの30種類に女性の絵が描かれています。


しかし、中世末期から近世にかけて、社会全体が男性を中心とするようになり、男性家長の「家」を前提に身分編成が行われるようになると、男性名義が徹底されるとともに、女性が主導権を握って活動することが決定的に少なくなって”(*2)いきます。


つまり、はじめはただの制度で、男性名義を借りておけばすんだものが、「名義を貸す」ことが男性の権力につながり、主導権自体が男性に移ってしまったということです。

制度とは、初めは何の変哲もないものだと感じても、のちの時代に社会の構造を変えうる大きな影響力を持つ重要なファクターだと言えます。


ーーーーー

のちの江戸時代では、100種類以上の職人の姿を描いた絵詞では売春と関連する仕事以外は全て男性が描かれるようになり、女性は一人前の職業者とみなされなくなりました。

男性中心の職業観は女性の職人をあえて「女職人」と取り上げて、働く女性を特殊な存在として扱いました。それは働く女性を性的にとらまえるまなざしでもありました。



【トピックス】

宣教師、ルイス・フロイスが見た自由な日本人女性


ルイス・フロイスは著書『日欧文化比較』の中で当時の日本人女性について記しています。


「ヨーロッパでは財産は夫婦の間で共有である。日本では各人が自分の分を所有している。時には妻が夫に高利で貸し付ける」


「日本の女性は処女の純潔を少しも重んじない。それを欠いても、名誉も失わなければ結婚もできる」


「日本ではしばしば妻が夫を離別する」


「日本の女性は夫に知らせず好きなところに行く自由を持っている」


などです。

これはヨーロッパが「女性や子どもは男性の所有物である」という考えを持っていたために、驚きと捉えられた項目です。


現代に翻ると、当時の女性が持っていた権利を両親や夫に奪われている女性も存在します。

また、江戸時代以降多くの女性から奪われ、現代に取り返した権利もありますが、これからまた権利が奪われる可能性も多くあります。



【トピックス】

キリスト教の伝来と女性


多くの宗教が特定の民族や特権階級のものになっていく中で、キリスト教が多くの地域で拡大した理由は、「地上に生命を享けた者は、みな神の子として平等である」という教えです。日本でも九州からその教えが広がってゆきました。


この時代の農民の間にはその貧苦の生活によって子供を育てることが不可能になる家庭も多くありましたが、宣教師たちはその苦しみから民衆を救うために、育児所を設け、不幸な子どもを収容したりしました。また、女性を尊重することも要求しました。


「女性として生まれてきたこと自体が罪だ」と言う男尊女卑の仏教思想の中で育てられた女性たちがキリスト教とで出会った時の心の救われは計り知れません。


キリスト教は女性の貞操だけではなく、男性の貞操も厳しく要求しました。

一夫一婦が永遠に愛しあい、離婚を許さないことも、ロマンチックで男女同権の世界のように見えました。


しかし、キリスト教も仏教に劣らず男尊女卑の考えを基礎に持っていました。

よく知られるアダムとイヴの物語でも女性であるイヴが禁断の果実を食べたことがきっかけで、寿命は有限となり、厳しい環境の中で苦役をしなければならなくなります。そして、この際に神が男性に女性に対する支配を命令したと言われています。


つまり前述の通り「女性や子どもは男性の所有物である」ので、西洋の女性は財産、生活、行動を男性と共にすることが求められたのです。

キリスト教の教えは、女性を尊重しているようで「所有物を大切に扱いなさい」と言っているに過ぎなかったのではないかと私は感じます。



II安土桃山時代


人質となった女こどもたち


戦国時代に武家の妻として、夫とともに自己の家を大きく興隆させた女性たちがいました。豊臣秀吉の正妻ねね、前田利家の妻まつ、山内一豊の妻、立花宗茂の妻誾千代(ぎんちよ)などです。


しかし、豊臣秀吉が天下を統一すると、合戦に敗れ、秀吉政権に下った戦国大名たちに対して、女・子どもなど、非戦闘員を「足弱(あしよわ)」とよび、降伏の印として人質として上洛させるように命じました。


大名の妻子や有力家臣の子弟を人質として統一政権のもとに集める政策も、豊臣秀吉の時代から始まり、江戸の幕末まで続きました。


このような人質制度は後の世の武家の妻の地位を大きく変えるものになりました。一生涯人質として本拠地を離れて暮らさなければならないので、夫とともに邁進することも、北条政子のように後妻として活躍することもできなくなりました。



戦乱と人の奪略


戦乱の最中では、男女問わず戦場での人の奪略がすざましい状況であったことが解明されてきたそうです。


豊臣秀吉の朝鮮侵略では、多くの朝鮮の人々が殺され、残虐な行為を被っただけでなく、人の奪略も大規模に行われました。それは老若男女、さまざまな階層・身分の人々だったそうです。彼らは鉄砲の代金としてポルトガル商人に売り払われたり、東南アジアやインドに奴隷として転売されたり、日本で使役され続けた人もいました。


豊臣家が滅亡した大阪の陣ののち捕らえられた人々は徳島に連れて行かれました。内訳は圧倒的に女性と子どもが多く、性的に使役をさせられるものたちが多くいたことが推測されています。



【トピックス】

風俗が乱れると禁止された女性歌舞伎


歌舞伎の起源は「出雲の阿国」という女性であったというのは有名な話だと思います。

”阿国には男装して、当時京都で流行っていた異風異装の「かぶき者」に扮し、男の扮する茶屋女との戯れを囃子に合わせた踊りに小歌を交えて演じ”(*1)ました。


東京女子大学の橋立亜矢子氏は「かぶき踊りの源流とその虚構性(*3)」にて、阿国の扮装は、”その姿は男や女でもなく、人間の枠を超越した異形な姿である”と言っており、”結果どうあれ好色性を売りにしたものではな(*3)”かったのではないかとしています。

また、”お国の装いは日常生活や社会規範、それまでの価値基準といったものから外れていて、社会の秩序を見出すおそれのあるものであった(*3)”そうです。


阿国が生み出した歌舞伎踊りは大評判となり、その後、女性をスターとする歌舞伎や、江戸時代初期には遊女屋の経営者たちが遊女たちを男装させた遊女歌舞伎などを次々と生み出しました。


これに対して、幕府と諸大名は都市の治安が悪くなり、風俗が乱れるとして遊女歌舞伎を取り締まり、女性が舞台に上がること自体が禁止されてしまいました。


女芸の禁止以降は若衆歌舞伎という少年をスターとする歌舞伎が主流になります。若衆歌舞伎は男色の流行の中で、人気を博しましたが、これも幕府の風紀取締の対象として禁止され、


若衆美の象徴とされる前髪を剃った「野郎頭」の成人男性のみに演じられるやろう歌舞伎となり現在に続いています。


ーーーーーー

阿国が生み出した芸術は風俗を乱すと取締られて、結果、男性の伝統芸能になってしまいました。

しかし、ここで一度考えていただきたいのは、風俗を乱すきっかけをいったい誰がつくったのかということです。

このテーマについてはPodcastで私の考えを話しています。終わりにリンクを貼っておくので、よかったらぜひ聞いてください。



今回のまとめ

・男性が家長を務める「家」を前提に身分制度が整理され、公の申請や書類は「男性名義」でなければならなくなる


・気が付けば「男性が名義を貸すこと」が「男性の権利」になり、「男性による支配」が加速する。


・女職人のように「女性」であることが特別視されはじめ、「女〇〇」と銘打たれて性的な眼差しを向けられるようになる


・「女性は管理し、支配するもの」という考えを基礎にもつキリスト教が伝来する


・女性が生み出した芸能や楽しみかたが、男性に性的消費に利用されたり、男性に奪われたりするようになった


以上が「中世後期日本の男女 〜性的に消費されはじめる女性たち〜」でした。


次回は「近世前期日本の男女」に迫っていきます。

どうぞお楽しみに。




この記事は、主に以下の本を参考に書いています。直接引用した分には(*1)(*2)を記載しています。

・大槻書店「歴史を読み替える ジェンダーから見た日本史」久留島典子・長野ひろ子・長志珠絵編(*1)

・企画展示「性差の日本史2020」国立歴史博物館2020(*2)



【この記事について創造妄想トークをしているPodcastは以下のリンクから聞けます!】




【働く女性とジェンダー格差をテーマにした

 新作ミュージカル「最果てのミューズ(仮)」

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