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④近世日本の男女 〜従属させられた女性たち〜



この記事では「働く女性とジェンダー」をテーマとした新作ミュージカル脚本執筆に向けて、ジェンダー格差について私が調べたことを簡潔にまとめています。

今回は近世日本の男女とジェンダー格差についてみていきたいと思います。

近世とは江戸時代を指します。


①「古代日本の男女 〜ジェンダー格差の始まり〜」はこちらから。

②「中世前期日本の男女 〜固定観念的「女性の幸せ」の萌芽〜」はこちらから。

③「中世後期日本の男女 〜性的に消費されはじめる女性たち〜」こちらから



江戸時代

「家」の中にも組み込まれた身分制度


江戸時代になると、原則として基本単位が家父長制的「家」となり、女性は「家」を代表できない性として位置付けられ、家父長に従属して生きることになります。


「家」を経営するにあたり、男性は公的領域や管理労働、生産労働に従事していたのに対して、女性は、生産労働と直接生産に結びつかない間接的な労働(家事、子育て、掃除など)が配分されていました。


幕藩政国家は強固な身分制社会で、市農工商の各身分は社会的分業に基づいて国家に編成されていましたが、そこに編成されたのは家の主である男性のみでした。


「家」の中で「母」の地位は他の女性より高く設定されていましたが、亡くなった夫の代わりに「後家」が国家の身分制度に編成されることはありませんでした。


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公的な手続き(契約や他人との交渉をする役割)や、意思決定をする管理労働、直接金銭を取得できる生産労働が男性の役割となった時、

同じ空間で働く女性は、男性に判断を仰ぎ、男性をサポートするしか方法がなくなってしまいます。


これは社会的に作られた役割分担であり、決して生まれながらに男性に判断力があり、女性がサポートの能力が高いために生じた生物的役割分担ではありません。



【トピックス】

家長は「家」の管理職


家長である男性は、「家」を経営するにあたって大きな責任が課されていました。


朝早く起床し家内の者たちを起こして、1日の仕事を振り分けたり、

田畑を見回り、奉公人たちの働きぶりを見届けたり、

家の戸締りをして夜遊びを慎んだり、

神仏事の諸行事をしきたり通り行って、日常生活でのルールを家族や奉公人に守らせることも重要な任務でした。

また、家の主の関与は台所まで及び、

調味料を使いすぎないように注意したり、漬物をどう製造して消費するか、特別な行事の日の献立なども家長の管理下にありました。


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結構細かいですね。会社組織の中にも細かいことを言う管理職がいますが、これは「家」の経営が背景にあったのかも知れません。


ちなみに、今の時代に良いとされる「部下に業務を委ねて責任をだけを取る管理職」像は、薩摩独特の「テゲ」と呼ばれる身の処し方に由来していると思われます。


「テゲ」は、細かいことは全て部下に委ね、結果の責任だけを負うという薩摩流の「大将の型」であり、西郷隆盛をはじめ、聯合艦隊の創設者とも言える山本権兵衛、日露戦争における大山巌、東郷平八郎といったところがその典型で、明治新政府が成立して以降、薩摩藩は多くのリーダーを輩出しました。




江戸時代の女性に割り当てられたもの


【低賃金】

いよいよ公的な役割を担えなくなった女性の役割は、男性のサポートなどとなり高い賃金を得られる職業や地位につけなくなりました。

しかしながら、同じ地位であるとされた幕府内の「老中(男性)」と「老女(女性)」をはじめ、豪農経営をする家に奉公する同じ奉公人であっても、男性と女性の間には明確な賃金差がありました。


【管理対象】

江戸時代には、同じ犯罪行為に対して男女に刑罰の差を設けることがありました。

男性に管理される立場である女性が犯罪を犯した場合、それは男性に誘われたり、そそのかされたりしたのであって、女性の主体的な意思とは言えないと考えられたため、その法的責任も大幅に軽減することが当然とされました。


しかし、18世紀後半になると女性が主体的に犯した犯罪に関しては、男性と同じ同等の刑を処されるようになりました。だからと言って、男女の身分秩序が変わることはなく、女性の地位は低いまま、処される罰は男性と同等になったのでした。


また、夫婦は主従関係であり、妻は夫に服従し貞節を守るべきものであり、密通はそれに対する最大の反逆行為であるという幕府権力の認識が存在していました。


密通とはいわゆる不倫のことですが、妻が不倫をした場合、夫が妻と不倫相手を殺しても

罪に問われませんでした。一方で、夫の不倫に対して、妻が夫とその不倫相手を殺害してもいいという権利はありませんでした。


【性的消費】

江戸時代はさまざまな庶民の文化芸術が花開いた時代でもありました。

滑稽本、人情本、洒落本、草草紙、などの文芸の世界から歌舞伎、浄瑠璃、浮世絵など多種多様なジャンルで、女性が語られ、描かれましたが、これらは女性を性的対象とする考え方や意識を強めるものでした。


多くの芸術の作者は男性であり、男性たちが集うホモソーシャルな空間で、女性は性的に消費され、侮辱されました。


江戸時代に生まれた川柳作者も大半は男性でした。江戸時代において一定の役割を与えられていた大奥女中たちは、男性川柳作家よりも階級的には上位の存在でありながら、ジェンダーにおいては下位であるという厄介な存在であったため、彼らは大奥女中をあたかも性的欲望の塊の如く語り、存在を貶めようとしました。


遊女に関しては「商品」として遊女を「モノ」として品定めをして、性的な場をしきりに語り、売れ残りを嘲笑ったりしました。


さらには、女性奉公人たちを無学無知であり粗暴粗野で、淫乱な存在と決めつけて侮辱しました。


実際に女性奉公人に対するセクシャル・ハラスメントは多くあり、性的嫌がらせや性的暴行、そして妊娠させられるというようなことがありました。


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恋愛感情もない女性を「性的対象として見る」というのは、女性に対する侮辱であり、そうすることでしか、自分の優位性を誇示できないのだと男性自身が語っているようなものです。


当時も今もエンタメの影響力は非常に強く、2次元の性的消費が3次元の実社会にも影響を与えていることが、女性奉公人の例をとってもわかります。



【感情表現】

物語や事件の記録の中で、女性は「男性には許されない感情的部分」の表現を担っている場合があります。


例えば、一揆指導者の男性が命を投げ打って村のために尽くした時、その妻は一晩中泣き明かしたという叙述があります。

”最も厳しい死という手段を選んだ男の人間的葛藤の一面を表現し、なおかつ女の弱さを対比的に男の決意を際立たせる役割が浮かび上がって(*1)”きます。


男性の「強さ」に対して、女性は「弱さ」を割り当てられ、それが女性らしさのひとつとされました。




江戸時代の女性が幸せを掴むための4つの出世ルート


ではこの時代に、女性が出世するためにはどうしたらよかったのでしょうか。

もともとの身分によって、ルートは大きく4つあると考えられます。


低い身分の場合

①遊女となり地位の高い男性からの身請けを狙うルート


中位の身分の場合(上層町娘や豪農の娘)

②大奥(江戸城)や奥(諸藩の城)に奉公にでて、行儀見習いとして勤め、数年で親元に帰って良縁を得るルート


高い身分の場合(武家の娘)

③大奥や奥の中でキャリアを積んで、当時のキャリアウーマンとして高い地位に上り詰めるルート

④将軍の子供(女性<男子)を産み母となるルート


ここで面白いのが(?)、①の遊女となり地位の高い男性からの身請けを狙うルートと④の将軍の子供(女性<男子)を産み母となるルートが合流する場合があることです。


五代将軍綱吉の頃から、妾の多くは「おどり子(妓娼・妓女)上がり」であり、子を持ったら「諸事の格式まで、本妻にさまで違わぬように」するようにという通法がありました。


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幕藩政国家の強固な身分制社会の中で、男性は与えられた身分を大きく飛び越えることはできませんでした。しかし、女性は婚姻を通して身分が大幅に上がることがあり、卑下していた女性が男性である自分よりも高い位になってしまうことがあります。


それを妬んだ男性集団が先に述べた川柳や浮世絵の中で、女性を性的に侮辱し、復讐し、消費することでうっぷんをはらしたと述べる研究者もいます。



今回のまとめ


・飛鳥時代に導入が始まった「中央政権制度」、そしてそれを支えるために平安時代前期に発達しはじめた家父長制的「家」制度が国の隅々まで浸透し江戸時代の基本単位となった


・社会的な身分制度に組み込まれるのた男性だけで、かつ家の中でも男性に従わなければならなくなり、名実ともに、女性は男性に従属する存在にならざるを得なくなった。


・女性は「弱く」て「卑しい」ため、管理して低賃金で使役していい、性的に侮辱してもいい対象となった



以上が「近世の男女 〜従属させられた女性たち〜」でした。




この記事は、主に以下の本を参考に書いています。直接引用した分には(*1)(*2)(*3)を記載しています。

・大槻書店「歴史を読み替える ジェンダーから見た日本史」久留島典子・長野ひろ子・長志珠絵編(*1)

・企画展示「性差の日本史2020」国立歴史博物館2020(*2)

・東京大学出版会「御一新とジェンダー」関口すみ子(*3)



【この記事について創造妄想トークをしているPodcastは以下のリンクから聞けます!】




【働く女性とジェンダー格差をテーマにした

 新作ミュージカル「最果てのミューズ(仮)」

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