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『母性』湊かなえ|母性という幻想と現実を描く、衝撃の社会派ミステリー

【書籍・レビュー】



「母性」という虚像に翻弄されていませんか?


「母性」という言葉に、どんなイメージを持っていますか?


それが母親に感じられなかったり、自分の子供に与えられずに悩んでいる人が多くいるように思います。


優しさ、無償の愛、全てを包み込んでくれる存在──。

けれどそれは本当に女性に備わった本能なのでしょうか。


湊かなえ『母性』は、母と娘という最も身近な関係を通して、私たちが信じてきた「母性」の正体を鋭くえぐり出す物語です。





現実の母親が抱える“言えない後悔”


NHKが2022年に実施した調査では、母親の3人に1人が「母親にならなければよかった」と思った経験があると回答しました。


その理由の多くは「私は良い母親になれない」という葛藤です。


「自分がいい母親でないと感じるから。ほかのお母さんをみているとすごいなと感心する」(30代)
「自分の思ういいお母さんにはなれなかった。もっと自分がしっかりしていたらとか考えてしまう。子どもがかわいそうだと思う事がしばしばある」(50代)

これらの回答によりは、母となった女性たちが理想と現実の間で苦しめていることがわかります。


私たちに「もっと母性があれば」──。


もしあなたが、あるいはあなたの妻が「母性」を持ち合わせていなかったら。理想の母親になれなかったら、あなたはどうしますか?





『母性』湊かなえの内容と魅力


きっかけとなるのは、女子高生が自宅の中庭で倒れているという出来事。

事故なのか、自殺なのか、あるいは――。


この物語は、母の手記、娘の回想、母性について、という3つのパートが交錯しながら進むミステリー小説です。

母の手記と娘の回想が主観的に重ねられていくうちに、事件の真相とともに、母と娘の関係そのものがあらわになっていきます。


本作で描かれるのは、“ずっと愛を注がれてきたからこそ、娘にどう愛を注げばいいかわからない母”と、“母からの愛を必死に求める娘”。

このすれ違いが生み出す痛ましい緊張感が、読者を物語に引き込みます。


事件の真相を追いながらも、同時に「母性」という正体不明の存在を問い続ける。

それが本作を単なるミステリーではなく、社会に深い問いを投げかける物語にしています。





「母性」という虚像に向き合う


私自身もずっと、母性は母親に当然備わっているものだと信じてきました。

けれどこの本を読み、「母性」とは社会が女性に押しつけてきた理想像だったのだと確信しました。


なぜ私たちは自国を「母国」と呼び、話す言葉を「母国語」と呼ぶのでしょうか。

「なぜ『父国』や『父国語』ではないのか?


そこには、男性は<外に出て国を導き、時代を切り開く>役割を担う一方、

女性は<国で待ち、守り続ける>役割を与えられてきた歴史があります。


「無償の愛」や「帰る場所がある安心感」は、人を勇気づけます。

しかしそれは女性の本能ではなく、社会が国や家庭に閉じ込めた「母親たち」に一方的に背負わせた役割でした。


また、現代に生きる多くの人々について、「母親との愛情」に翻弄され、葛藤を抱えていると感じます。

なぜ「父親」ではなく「母親」との関係にこだわるのか。

それは母親だけが、慣れない育児にかかりきりで子どもと向き合ってきた時代が長かったからでしょう。


私たちは「母」に対して、完全で揺るぎない母性を求めすぎてきたのかもしれません。



私が構想しているミュージカル『最果てのミューズ』では、「母親たちの葛藤と在り方」が物語の原動力になると予定です。





まとめとおすすめ|こんな人に読んでもらいたい


湊かなえ『母性』は、母と娘のすれ違いを描きながら、私たちが無意識に抱いてきた「母性」のイメージを揺さぶります。

読み進めるうちに浮かび上がるのは、家庭の物語を超え、社会全体に根づいた価値観や固定観念の問題です。


そして、最後には素晴らしいミステリー小説として、読者に新しい気づきと驚きを提供してくれます!そこがやっぱり面白い!


こんな方におすすめです


•  「母性」という言葉に違和感を覚えてきた方

•  親子関係、とくに母と娘の関係に悩んでいる方

•  ジェンダーや社会的役割について考えたい方

•  ミステリー要素のある人間ドラマを読みたい方




 
 
 

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