この記事では、なぜ新作のテーマに「働く女性とジェンダー格差」を取り上げることにしたのか、その理由をお話ししようと思います。
随分前から、日本がジェンダー格差指数のランキング下位常連であることは知っていました。ですが「ふーん」程度の感想でした。なぜなら、自分に男女格差の実感がなかったからです。今も働く女性の多くがそのような感想を抱くのではないでしょうか。
フェミニズムの勉強をしても、もうすでに参政権も持っているし、男女の賃金格差についても同期の賃金はわからないし、中絶する権利と言われても妊娠したことがない。働いていても結婚したら、妻が家の中のことやるのは「女」の方が向いているからで、義実家の家事を手伝うのは「嫁いだ妻」として当然のことなんだろうなぁ。おばあちゃんだって、母親だってそうだし。という感覚でした。
そんな私でしたが、笛美さんの著書「ぜんぶ運命だったんかいーおじさん社会と女子の一生」を読んだことで、突然景色が変わったのです。
特に「働く上で当たり前だ、仕方ない」と思っていたことが、決して当たり前でも、仕方なくもなかったことに気がつきました。
私の身近な例をあげると、
【安くて手軽な代用品として、コンパニオン、ホステス、キャバクラの代わりにされる】
・飲み会や偉い人との会食に「女の子枠」で呼ばれること
・浮気や不倫など性的な男らしい会話に参加させられ、その場で嫌がらないことが大人の女のように扱われること
・頼んでもいないのに男性から詳しく説明をされ、笑って対応すること
・得意先のために、飲み会で露出のあるコスプレをさせられたこと
(仕事を取るためにはやりたくもないことをやらなくてはならないと教わる。男性は行きたくなくてもキャバクラに行くなどと言われる)
【”らしさ”を押し付けられたり、逆に軽んじられたりする】
・おじさんから、女性たちだけが「女性プロジェクト」に参加させられること
・出産をギリギリまで伝えられなかったことを「騙された」と表現すること
・女性だという理由で企画書が通らないこと
・重要な仕事は任されなくなること
・女性管理職を増やすという取り組みの中で管理職になれただけだと蔑まれること
・加齢による体型の変化を笑われたり、ネタにされること
などがありました。身に覚えのある出来事はありましたか?
まだまだたくさんあると思います。
これは、上の方が若い女性に起こり、下に行けばいくほど年齢を重ねた女性に起こる出来事です。
「仕事には必要なんだ」と思い込んでいたことや、「そう言われても仕方ない」と、男性に同調していたことを、「これはジェンダー格差だ」と認識した瞬間に、涙が溢れました。
同時に「嫌だけど仕事だから。仕事とはそういうものだから仕方ない。自分だけが我慢すればいい」と見過ごしたことで、後輩の女性たちにも同じ目にあう環境を残してしまったと自覚し、大変後悔しました。
そして、これらの中で私が最も衝撃を受けたのは「女性だという理由で企画書が通らないこと」でした。私はプランナーとして働いていたので、これは死活問題です。笛美さんの本の中では「男性が代わりに話すと、企画が通る」というようなことが書かれています。最初は状況が理解できず「女性だからではなく、能力がないからでは?」と、当然思いましたし、私自身、自分に能力がないから企画が通らないのだと思って悩んでいる時期でもありました。得意先仕事ではなく、自社の新規事業開発部に異動してからはなおさらでした。
しかし「もしかして、女性だから私の企画書は通らないのか?」と疑念を持ち、会社員生活を続ける中で、「ほんとにそうなのかもしれない」と思うようになりました。
【女性だから私の企画書は通らないのか?】
理由は大きく2つ考えられます。
【根深い儒教思想】
ひとつ目は、長い歴史の中で日本人に脈々と受け継がれている「女は男に従っていればいい」という儒教思想です。ここで、多くの男性が「そんなこと思っていない!」と心で叫んだと思われます。実際に思っていないと私も思います。だけど、男性だけでなく女性の中にもそのような思い込みがあり、男女ともに「思ってなくても無意識のうちに行動に出ている」可能性があります。
一例ですが、複数人でランチや飲み会に行った時、女性がビールを注いだり、食事を取り分けているのを眺めていたことはありませんか?
あるいは、家で母親や妻が全てやってくれて、甘やかされて育ってはいませんか?
かくいう私も「これは自分の仕事だ」と思い、率先して食事を取り分けていました。しかし、なぜ女性がやらなくてはならないのでしょうか?
気が効く女性とは? 男性が気が利いてもいいですよね?
儒教思想の中に「娘は親に従い、妻は夫に従い、母は子(男子)に従え」という思想があり、鎌倉時代以降の女性教育では、この思想が形を変えつつも刷り込まれ続けました。
男性も女性も知らず知らずのうちに、このような枠に自分を当てはめて行動しています。
それから同じ儒教思想で「女はしゃべるな」という教えがあります。
しゃべるならば、小さな声で、口数を少なく、丁寧な言葉遣いで、遠回しな表現をした方が「女らしい」というのです。
明治に入って女性に学がついてくると、福沢諭吉が最も嫌悪したのが、女が知識を開陳して議論することでした。(知識を開陳して議論しようとするから私に万札が舞い込んでこないのかも。)福沢諭吉は「教育の進歩とともに、婦人が身柄にあるまじきことを饒舌り、甚だしきは奇怪千万バル語を用いて平気なるは、浅見自ら知らざるの罪にして、唯憐れむ可きのみ」と激しい表現で批判しています。女にしゃしゃりでてほしくないのです。
どうでしょう。無意識のうちに、女性の話し方はわかりにくい(むしろ授業思想の賜物なのだが。)、一方で、男性(特に年配)の方が知識や経験があるはず、と思っていませんか?
笛美さんが本で書かれていた「男性が代わりに話すと、企画が通る」というのは、このような固定観念からくるものなのではないかと私は思っています。
※後日笛美さんから直接お伺いしたのですが、「自分の企画を年配の男性に説明してもらったら企画は通るのか?」という実験をしたところ、「すんなり通る」という結果が得られたそうです…! 企画を通した方に、その理由を直接聞いてみたいですね。
【日本の資本主義】
そして、ふたつ目は日本の資本主義的思想によるものです。
これは私の仮説であり、新作「最果てのミューズ(仮)」で問題提起しようしている項目でもあります。
私個人が大企業で働く中で感じた「通る企画と、通らない私の企画」について図で説明していきます。
(ここでは時代や社会情勢などの変動指数は省きます)
(業種・業態によっては私の仮説と異なるかもしれません。その場合はぜひ教えてください)
通る企画は、テーマが明快(個別・単純)で、勝ち筋(闘争)が見えている企画です。
私の企画は、テーマが社会課題(包括・複雑)で、みんなで協力して利益を分け合おう(和合)という企画です。
この四つを象限に分けると以下のような図になります。
つまり、通る企画は「A」の象限。私の企画は「D」の象限です。
次に、象限の中身を見ていきましょう。
それぞれの項目の印象は以下に表現しました。
あなたが、ご自身の考えで世の中と関わろうと考える時、上下、左右どちらを好みますか?
それが、仕事になった場合、選ぶ項目は変わりますか?
もし、変わるとしたらなぜなのでしょう。
では、4つの象限にはどのような特徴があるのでしょうか。
まず大きく見ると必然的に、左上が短期的施策、右下が長期的施策になります。
それは、個別案件の方が複合案件より物量的に短期で問題を解決できるし、
闘争は勝ち負けですが、和合は調整なので、調整のほうが当然時間がかかるからです。
以上を、前提にそれぞれの象限が「想起させる結果」を見ていきましょう。
A「個別・単純」×「闘争」=成果が見えやすく、利益が出やすい。
B「個別・単純」×「和合」=利益が出にくい。
C「包括・複雑」×「闘争」=成果が見えにくい。
D「包括・複雑」×「和合」=成果が見えにくく、利益が出にくい。
もしあなたが、経営者だったり、上司だったら、どの企画を選びますか?
Aを選びたくなってしまいますよね。
しかしながら、「想起させる結果」と注釈したように、中長期的に見て本当に利益が出るのはどの象限かは、実際にやってみないとわかりません。
なぜなら、冒頭であえて考慮から外した「時代や社会情勢などの変動指数」が本当の成功の鍵だからです。それは「いま現場に出ていない人」「課題を熟考していない人」の経験値では判断できません。それがたとえ広く知識や経験がありそうな年配の男性だったとしても、当事者としての自覚がなければ的確な判断はできません。
【「ビジネス」は、人を殺さない現代の平和的戦争?】
さて、少なくとも今の「資本主義」には、「闘争(競争)」で資本を奪い合うという大前提のルールがあります(緑のゾーン)。
なので、資本主義の中でお金を得ようとすると、どうしても「闘争」を視野に入れなければなりません。お金は限りある資源ですから、取り合いです。
焦って、成果が出やすい施策を短期に回していくことが目的になりがちです。近年日本は「長期」的視点が甘いので、なおのことA象限に物事が集中します。
かつて私も、A象限こそ「ビジネス!」と思い込んでいた若かりし日がありました……。
調査やマーケティングの知識を駆使して、ターゲットを定め、戦略、戦術を披露しました。
「ビジネス」は、人を殺さない現代の平和的戦争だとも思っていました。
でも、本当にそうなのでしょうか?
その「ビジネス」は、本当に人を殺さないのでしょうか?
世の中には「ビジネス」でお金を失って、自殺をする人がいます。
一方で、「ビジネス」に成功して、お金を持て余して無駄遣いをする人もいます。
もっと豊かに暮らしたいー、その先に「戦争」があります。
富裕層の資本の取り合いが激化すると「戦争」になるのです。
ここでは詳しく話しませんが、「ビジネス」と「戦争」は、つながっています。(加えておくと、今の社会主義がこの問題を解決する主義ではありません)
私は、ここ何年もの間、「ターゲット」「戦略」「戦術」「奪取」などのマーケティング用語を使うことに違和感を感じています。共通用語として便利なので、使ってしまうこともありますが、私は別に闘争したいわけではないのです。長くなるので割愛しますが、闘争をしなくても成り立つお金の頂き方があると私は信じています。
「闘争したいわけではない」。そう考える男性も多くいるのではないでしょうか。
ですが、ビジネスでそのような態度をとる男性は「女性的」だとレッテルを貼られます。
【女性性、男性性とはなんなのか?】
私がジェンダー格差の歴史を勉強する中でわかってきたのは、主流で正しい(と思いたい)ものは「男性性」、それ以外は「女性性」と表現されるという歴史的事実です。
男性の中にも「女性性」はあるし、女性の中にも「男性性」はあります。
これまで説明してきたように、日本の資本主義社会の中で主流な企画は、A象限の企画です。なので、ビジネスの世界では、A象限が男性的で正しく、それ以外は女性的な要素を含む正しくない企画と判断される傾向があると私は思います。
働く皆さん、あなたは自分の中の女性性を排除して仕事をしようとしてはいませんか?
無理に、男性性を強調して働いてはいませんか?
自分に嘘をついてAの企画を提案していませんか? あるいは、Aの企画が仕事上正しい企画なんだと思い込んでいませんか?
とどのつまり、私の企画は「主流」ではないから、「女性性の強い企画」だから、「通らなかった」と、私は考えたのです。
B、C、Dの象限は利益や成果が出づらいですが、それらの中にも重要な仕事はたくさんあります。
D「包括・複雑」×「和合」の考えに基づいて、私はかなり早い段階で「環境配慮型商品」や「SDGs」に着目した企画を提案していました。
しかし、まだそれらが主流ではなかったので「環境はビジネスにならない」「SDGsはボランティアでしょ? CSRと何が違うの?」と、退けられてきました。
ところが主流になった途端、この盛り上がりようです。
気づけば「環境」や「SDGs」はAのジャンルに仲間入りです。
でも本質的にAに属する項目ではないので、「環境」や「SDGs」で短期的に稼ぐことはできず、企画が通ってもだいたい赤字に終わります。
私からしてみれば「主流」は「保守」です。
常に新しい時代を切り拓きたいと考えている私は「保守」の企画書をあまり書きません。
ですが、女性性には「古くささや伝統」というイメージもよく押しつけられます。
男性性は「保守(主流)」のくせに「最先端」というワードも欲しがるようですね。矛盾してて謎。
時代が変われば「男性性」と「女性性」が指すものが逆転することもあり得ます。
「男性」「女性」なんて言い方をするから誤解を生むのであって、本来は「A」と「B」、「1」と「2」、「白」と「黒」みたいなものだと感じます。
ところが、主流でないものは全て「女性性」=「女性そのもの」と強引に押し付けられているのが現状なのです。
今回のまとめです。
「なぜ働く女性とジェンダー格差」をテーマにしたいのか?
ジェンダー格差を学ぶ中で、よく「男性が中心で、女性は周縁におしやられる」という言葉を目にします。
一番端っこに追いやられるという意味なのですが、でも「周縁」って見方を変えれば「最先端」だとも思うんです。あなたが望んでも望まなくても「女性性」は、時代の最先端に立たされていて、もう目の前の塀を乗り越えばいいだけの場所にいる。中心を見て嘆くのではなく、外に向かって歩き出せばいい。
「本当の最先端」は、「女性性」を押し付けられた性別にあって、
「女性性」の働きは、きっと新しい時代を切り拓く。
私はそんなメッセージを届けたくて、このテーマを選びました。
この記事を書く中で、「働く女性」ではなく「ビジネスパーソンとジェンダー格差」でもいいのかもしれないと思うようになりました。こちらは脚本と合わせてまた考えます。
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